200年以上の歴史と伝統を誇る日田の酒蔵【井上酒造】 7代目女杜氏が米づくりから始めたmade in HITAの日本酒”百合仕込み”

約60年前、日田に8蔵ほどあった酒蔵も今は3社のみ。
今回ご紹介するのは、1804年(文化元年)の創業より 200年以上続く日田の酒蔵【井上酒造】です。
日本酒や本格焼酎を生み出す日田の酒蔵【井上酒造】。伝統を繋ぐ女性杜氏の熱き情熱と故郷愛
「20年間東京に出て、専業主婦をしていたんです」
そう切り出してくれたのは、結婚・出産、子育てを経て、日田に帰郷し、【井上酒造】の7代目社長となった井上百合さん。
専業主婦から一転、実家の酒蔵の伝統を次の世代に守り繋ぐため、イチから酒造業や経営を学び始めたと言います。

「ずっと専業主婦だった私に務まるだろうかと不安はありましたが、20歳になった娘からの力強い後押しもあり、これが自分のすすむべき道だと覚悟を持って故郷である日田に帰ってきました」
社長というおごりは一切持たず、 何十年と働いてきてくれた職人さんたちに頭を下げ、酒造りのノウハウを学んだのだそう。

それでもやはり酒造りは奥が深く、東京の「酒類総合研究所」に入学。若い同期の子たちと共に、研修生としてイチからみっちり学ぶ2ヶ月間を経て、再び帰郷。
百合さんは日田に帰ってきて、改めて日田の美しさ、故郷のあたたかさに気付いたと言います。

「三隈川の夕日、霧がかった杉の山々。そんな日田の雄大な自然を目の当たりにし、あまりの美しさに思わず息をのみました。一度故郷を離れたことで、日田を客観的に見ることができたんですよね。そして、”日田のお酒”を造りたいと思ったんです」

”日田のお酒”を造ると決意した百合さんの次なる挑戦は、お米づくり。
”美味しいお酒は美味しいお米から”と、酒米をつくるために農業の勉強も始めました。


そうして、幾度となる試行錯誤の末にようやく完成したのが、蔵の仕込み水である伏流水を引いた田んぼで手塩をかけてつくったお米と、日田の水、そして日田の職人たちで造り上げた”日田のお酒”「百合仕込み」です。

日田をこよなく愛する女性杜氏が手がけた、甘酸っぱく、キリリと芳醇な仕上りの日本酒。機械を使わずに手搾りで、丁寧に丁寧に造られています。
日田で暮らす人たちにこそ、味わって欲しい逸品です。
度重なる災難を乗り越え、社員一丸となって美味しい酒造りを続ける【井上酒造】
帰郷して酒造りを学び始めた百合さんを最初に襲ったのは、火事でした。
自らの不注意により酒造場でぼや騒ぎを起こし、翌年は熊本地震、その翌年は九州北部豪雨による水害、そして前社長であるお父様の死。

なかでも、もうダメかもしれないと諦めかけたのが、2017年の九州北部豪雨だったと言います。
被害の大きかった大鶴地区にある【井上酒造】は、大雨でタンクが流されました。
復旧作業は真夏の暑い時季。心が折れそうになりながらも、社員一丸となって倉庫に押し寄せた土砂の撤去、掃除から始めました。
「被災した社員もいました。私は社長として、社員、そしてその家族を守る責任がある。挫けそうになりながらも自分を奮い立たせ、困難な状況の中でも出荷を止めることはしませんでした。たった一本でもいい、それが未来への希望になると思ったんです」

幸いなことに、田んぼの苗は奇跡的に無事。元気に実った酒米でその年も美味しい日本酒を届けることができたのです。
試練の連続だったが、その度に得るもの、学ぶものも大きかった。こうして度重なる災難を乗り越え、15人の社員との絆も強くなっていったと言います。

その矢先、世界中を震撼させた新型コロナウイルス。この猛威は、飲食店やホテルなどと取り引きをする酒造業にとっても大打撃となりました。
しかし、そんな中でも立ち上がり、挑戦し続けるのが【井上酒造】。
アルコール度数66%の「角の井スピリッツ」を医師会に寄贈

全国のドラッグストアや商店からマスクやアルコールスプレーが消えた頃、一人の社員から「消毒できるアルコールをつくって、医師会に寄贈しましょう」という声が。
200年以上続く【井上酒造】においても、これは未知なる挑戦。手探りで懸命に打ち込み、一週間という急ピッチでつくり上げたのが、アルコール度数66%の「角の井スピリッツ」です。
ただの消毒用かと思えば、それは芳醇でまろやかな味わいの”飲めるアルコール”。そこには、老舗酒蔵の意地とプライドが感じられます。
そして2020年5月1日、「角の井スピリッツ」120本を医師会に寄贈されました。
地元の方々にも使ってもらえるようにと、「角の井スピリッツ」は本社内にある直売所でも一般販売されています。

「医療の面で社会貢献ができる新たな喜びを感じました。角の井スピリッツを造る過程で得た学びが、また新しい商品づくりにつながります。ピンチはチャンス!やっぱりどんな時も気持ちが一番大事だと実感しました」と、百合さん。

酒蔵見学&清渓文庫(井上準之助の生家)

木造蔵と主屋が国の登録有形文化財にもなっている【井上酒造】。
昭和12年に建築された木造蔵は、桁行12間、梁間8間の総2階建築。2階の梁材には16メートルの一本物の松が使用され、中央に柱のない大空間が広がっています。その光景はまさに圧巻!

建築に携わったのは、当時の近隣さんや大工さん。釘は一切なく、木の性質を生かして丁寧な手仕事で建てられた木造蔵。昔の人たちの知恵が至るところに散りばめられた立派な蔵に大興奮でした。

建築当時の写真なども飾られています。2階部分には昔の道具も展示されていますよ。
そして、元大蔵大臣”井上準之助”の生家として「清渓文庫」と名づけられた主屋も見学(要予約)ができます。

【井上酒造】の会社情報とアクセス
- [所]日田市大字大肥2220-1
- [☏]0973-28-2211
- [P] 有
- 営業時間や休みは要問合せ
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